G20で「通貨ではなく暗号資産」と規定された仮想通貨のこれから









業界自らが招いた混乱だ

仮想通貨は、「通貨」としての特性を欠く「暗号資産」であり、消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与など、さまざまな問題を抱えている――。

アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで開かれていたG20(20ヵ国地域の財務相・中央銀行総裁会議)は、3月20日に閉幕。各国の金融幹部は、世界で取引が拡大している仮想通貨について初めて議論を展開、仮想通貨を「暗号資産」と位置づけ、その課題に厳しく言及した。

今後、金融監督者が集まる金融活動作業部会(FATF)で、交換業者の登録制、利用者の本人確認など、規制強化が検討されることになった。FATFは、それを7月までに報告書にまとめることになっており、仮想通貨は金融当局の管理下に置かれたうえで、通貨の装いを整えることになるだろう。



このG20のコンセンサスを待つまでもなく、日本では2017年の熱狂がウソのように仮想通貨周りが静まっている。指標のビットコインが1年で20倍強になり、交換業者に口座を開く人が急増、メディアが仮想通貨を取り上げない日はないほどの狂騒を冷ましたのは、1月26日、みなし登録業者のコインチェックで発生した580億円分の「NEM」流出騒動だった。

非中央集権でグローバル、かつ安価で素早い決済・送金システムを持つビットコインなど仮想通貨の将来性に魅力を感じる人は少なくない。また、仮想通貨を成り立たせるブロックチェーンには、現行の経済システムを破壊するほどのパワーがある。

だが、双方への過剰な夢と期待がバブルを生み、犯罪者を誘因、金融周りのいい加減なカネ儲け主義者、振り込め詐欺周辺の反社会的勢力、それに本格的なハッキング集団や脱税指南役まで集まって、金融当局が無視し得ない状況になっている。

今は、夢と現実が交錯、どっちつかずの状態が続いている。混乱ぶりは、最近のニュースでも明らかだ。

『お金2・0』(佐藤航陽)、『日本再興戦略』(落合陽一)といった仮想通貨やブロックチェーンが招来する新しい経済システムを指し示し、そこにコミットすることで自らの価値基準を高めようとする本が10万部を超すベストセラーとなり、Yahoo!の仮想通貨参入で株価が急反発する。

その一方、フェイスブック、グーグル、ツイッターが相次いで仮想通貨や仮想通貨を使った資金調達手段のICO(イニシャル・コイン・オファリング)の広告を、詐欺的利用が多いことを理由に禁止した。既に中国や韓国ではICOは禁止、G20の枠組み以外でも規制は強化されている。




この混乱は、仮想通貨業界が自ら招いたことである。

コインチェックから流出した580億円は、3月22日の段階で、流出したNEMのほぼ全額が、他の仮想通貨と交換されていることが判明した。世界有数の規模の金融犯罪が成立。コインチェック事件ほど「仮想通貨の闇」を照らすものはない。

コインチェックは天才プログラマーの和田晃一良社長(27)が創業した投稿サイトが母体で、「時流に乗る商売を」と、選んだのが仮想通貨交換業だった。事業はリクルート系企業で法人向け営業を担当していた大塚雄介取締役(33)を迎え入れたことで急伸。17年末、タレントの出川哲朗を使ったテレビCMで業界トップクラスに躍り出た。




バブルがひと段落したあとに…

580億円のNEM流出は、常時ネットワークに接続、複数の電子署名を使わず、といったズサンな管理体制のもとで発生。金融庁の嫌う匿名の高いコインを扱っているので、いつまでも「みなし営業」で登録業者になれなかったが、「顧客や株主の要望だから」と、Zキャッシュ、モネロなど匿名性の高く、収益力の高いコインを扱い続け、このカネ儲け主義でハッカーの餌食になった。

ただ、破綻を救ったのも金儲け主義。先にコインを仕込み、顧客にぶつけてサヤを稼ぐ商法で蓄財、580億円(返済は売買停止後の加重平均で460億円)を全額法定通貨で返却するほど豊かだった。



NEMは、New Economy Movement(新しい経済運動)の略で、法定通貨のような中央集権ではなく、ブロックチェーンを用いた分散化によって、平等で金銭的自由のある新しい経済圏を目指そうとするプロジェクト。その信頼性を得るために設立されたNEM財団は、シンガポールに本拠を置いてプロジェクトを推進する。

コインチェック事件にはすぐに反応、「タグ(目印)付けするシステムを開発する」と明言。実際、履歴を追えるブロックチェーンの強みも生かし、ホワイトハッカーの力も借りながら、事件直後から追跡、「アドレスの特定とタグ付けで換金は不可能」と、胸を張っていた。

しかし、破られない技術はなく、穴はどこかに空いている。NEMのハッカーは、武器や薬などの密売所ともなる匿名性の高いサイトのダークウェブを利用。割安でビットコインなど他の通貨との交換を呼びかけると、応じる投資家が続出した。

換金が5割以上となった3月18日の時点でNEM財団はギブアップ。「追跡を停止する」と、一方的に通告をすると換金は一挙に進み、3月22日午後6時45分、ハッカーのダークウェブのサイトに北朝鮮の金正恩似の人物が、札束に囲まれて現れ、「ありがとう」のメッセージを残した。

仮想通貨が通貨と認定されないのは、値動きが荒くて信用性がなく、交換、価値付け、保蔵の「通貨3要件」を満たさないためだが、同時に犯罪にもろく、犯罪に利用されてしまう弱さが指摘される。

「脱税やマネーロンダリングに使われ、ダークウェブサイトではNEMのような盗品だけでなく、武器や薬物など違法品の決済に利用される。また、詐欺的通貨をネットやセミナーなどで販売したり、上場前のトークン(通貨引換証)を使ったマルチ商法、実態のないプロジェクトでカネだけ集める詐欺的ICOなど仮想通貨は犯罪の温床といっていい」(警視庁捜査関係者)

しかも、仮想通貨を縛るのは資金決済法だけ。金融庁は登録業者を厳しく管理することで業界に目を光らせるしかないが、金融商品でないことをいいことに、金融商品取引法の埒外であるとして、インサイダー取引、相場操縦、風説の流布など、悪徳業者はやりたい放題である。

言葉巧みに夢を見せて金銭を奪い取るのはいつの世にもある詐欺商法。バブルには必ず詐欺がついて回る。30年前の不動産・株・リゾート・絵画の昭和バブルも、IT・ドットコムバブルも、証券化商品バブルも常に同じ。仮想通貨バブルも初期に犯罪者が群がるのは自然の摂理とさえいえる。

問題は、その正体が割れ、バブルがひと段落したこれからである。G20のコンセンサスも含め、国家の管理が強まるなか、通貨の可能性領域を広げたビットコイン、新しい経済運動を提唱するNEMなどは、単なる投機先としての暗号資産から脱却、経済システムを変え、新しい価値基準を提案する通貨になり得るのか。

現在、「草コイン」といわれるクズもあわせて1000は超える仮想通貨のなかから、早期に、ひとつでもふたつでもいいから新たな価値体系を創造するコインが現れなければ、仮想通貨はカネ余りに浮かんだ徒花に過ぎなくなってしまうだろう。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55035










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